第4章 その7:「AC療法3クール目」
2015年7月21日、3回目の投与日。
投与前の診察で、しこりが小さくなっているかどうかを尾田平先生に「触診して」確かめていただきたかった。
「先生、今日、触診してもらえますか?」
「まずは4回終わらせてからじゃな。今、何も変わってなかったとして…」
あとから考えると、尾田平先生は「この方針で大丈夫、信じてついてきなさい!」と、言っていたんだなと思う。
このときは自分の不安を取り除きたいということで精いっぱいだったので、せめて、尾田平先生がもう少し優しく言ってくれたら(というか形だけでも触診してくれるとかさ…)と思った。
でも、これが尾田平先生なのだ。圧倒的な威厳と実績がある一方で、患者に対しては不器用。先生の患者に対する向き合い方がなんとなくわかるようになってから、尾田平先生の愛を感じるようになった。
この日、白血球の数値はやや低め。でも、尾田平先生の判断で、予定通り3回目の投与を行った。
世間的には夏休みムードだ。もうすぐ8月が来る。8月1日は地元岡山の花火大会が予定されている。あたりまえの夏が、今年は遠い。
テレビからは、新国立競技場のデザインについて二転三転している様子や、東芝の会計問題で役員半数が退任することなどが伝えられていた。
それらを私は3回目の「ズーン」の中で、ぼんやりと、自分には遠い世界の出来事のようにとらえていた。
全4回のAC療法の中で、最もつらいと感じたのは、この3回目だった。
実は、AC投与2回目が終わったとき、「次こそは無理。乗り越えられない」と、つい口から出てしまったこともある。
「自分が苦しむだけなら耐えられる」と思っていたのに、こんな弱音を吐いた自分に驚いた。
AC療法の標準治療回数は4回。その意味を、身をもって知った。
1回目は「全く初めて」、2回目は「痛みが変わった期待感」、4回目は「これで最後!」と、自分を奮い立たせることができた。3回目のとき私は、自分を見失い、もうこれ以上の底はない!と思えるくらいの底にいた。一日一日が精一杯で、昨日のことも、明日のことも、ましてや未来のことも考えられなかった。
「当たり前の毎日って、貴重なんだ」 … 心からそう思った。
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