第1章 その5:「期待」
自分ががんかもしれないと告げられた翌日の今日は、午後からマンモグラフィ(※)とMRI(※)、針生検(はりせいけん)(※)をする予定になっていた。朝から自宅で仕事をした。パソコンに向かい、黙々と作業を続けていると、一時的にはその不安を忘れることができた。
そんな中、友達から「実は私、妊娠したんよ~。」とメールが入る。前職で一緒に働いていた同期のメンバーで、久しぶりに集まろうという話になっていた。メールの最後は「せっかくの皆の集まりに顔を出せなくてほんとごめんね。」
すごいタイミングだ。いろいろな感情が入り混じって渦を巻き、胸が苦しくなった。昨日までは自分が妊娠したかもしれないと思っていたのに…。
家族からも、自分のことを心配してくれるメールが届いていたけれど、返信する気力もなかった。
再訪したクリニックでの検査中、また悔し涙が込み上げてきた。昨日の今日で気持ちも追いついていないのに、次から次へと痛い検査をして、とてもみじめな気持ちだった。
(どうして、わたしが…?)
看護師さんが心配して声をかけてくれたので、自分でも驚くくらい小さな声で「注射がこわいんです」と取り繕った。
マンモグラフィの結果は、「乳がんの場合に多くみられる石灰化(※)は確認できない。」とのことだった。それを聞いても、なんのことかわからない。
MRIの結果は、それ以上にわからない説明だった。「造影剤投与後、一分で左乳房へ造影剤が集まってきています。造影剤投与後二分以降、さらに造影剤が集まっています。がんの場合は、二分以降から、造影剤が周囲に逃げていくパターンが多いのですが…、」その次の言葉を待った。「…現状ではなんとも。」
なんだか希望を持たされる感じで終わったけれど、期待はしないでおこうと思った。期待なんてしてしまったら、もし、「最悪の場合」と言った先生の言葉通りになってしまったとき、絶対に立ち直ることはできない。
針生検で採った組織の診断結果が出るのは、二週間後の金曜日だそうだ。
- マンモグラフィ 乳房のX線撮影のこと。腫瘤(しゅりゅう)や石灰化などが確認できる。腫瘤とは白くみえるかたまりのことで、良性であることも悪性であることもある。
- MRI マンモグラフィや超音波検査(エコー検査)を補う検査として、造影剤を用い、乳房内の病巣の広がりの程度やリンパ節に転移があるかどうかを診断する。
- 針生検 細胞診よりも太い針を病変部に刺し、組織を取り出す。針が太いため局所麻酔が必要。マンモグラフィや超音波検査で、採取部位を確認しながら検査する。
- 石灰化 乳房の一部にカルシウムが沈着したもの。小さいものが一カ所にたくさん集まっている場合には悪性を疑うことになる。
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